読書

『不道徳な見えざる手』こうしてあなたは「釣り師」にだまされる

投稿日:

経済学をちょっとでもかじった人であれば、アダム・スミスやその著作『国富論』、そして「見えざる手」という言葉を聞いたことはあるだろう。「見えざる手」というのは、個人が利己的な投資行動をしていても、全体としては「見えざる手」に動かされるように全体の利益や成長につながることを表現したものだ。

 

時代を経るにつれて、この「見えざる手」という言葉は、次第に「なんでも市場にまかせておけば、見えざる手によって最適な配分、解がもたらされる」というように曲解され、新自由主義を生み出してしまう。新自由主義は、規制の撤廃、国営公営企業の民営化を通じて政府の役割を小さいものにしてきた。それは、一方で莫大な富を持つ人、もう一方で不十分なセーフティネットのせいで「健康で文化的な最低限度の生活」すら送れない人を生んでしまうことになった。

 

このスミスの「見えざる手」に疑いをかけ、新自由主義的なもの、あるいは古典経済学的なものを壊し、新たな経済学を構築しようとする試みが本書ではなされている。

 

著者のジョージ・アカロフとロバート・シラーは、2人ともがノーベル経済学賞受賞者であり経済学の重鎮である。アカロフは情報の非対称性に関する研究が専門で、シラーはバブルに関する研究が有名である。余談ではあるが、僕も卒論の時にシラーの『投機バブル 根拠なき熱狂』には随分とお世話になった。

不道徳な見えざる手

不道徳な見えざる手

  • 作者:ジョージ・A. アカロフ,ロバート・J. シラー
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 発売日: 2017-05-12

「釣り師」と「肩の上のサル」

著者たちは、私たちの嗜好にはふたつの種類があるという。私たちにとって本当に有益なものと実際に決断を行うときのものである。簡単にいってしまう理性的なものと本能的なものである。著者たちは、後者を「肩の上のサル」という比喩で表現している。

 

そして、「釣り師たち」は私たちの「肩の上のサル」、つまり私たちの弱みに語りかける。その時に使われる道具は、「返報性」であったり、「権威」、「損失回避」などであったりするが、その結果、私たちは求めてもいないものや結果を手に入れることになる。(もちろん釣り師たちは、自分が求めていたものを手に入れる)

 

そして、そうした「釣り」の機会は例外的にあらわれるのではなく、「常にある」というのが著者たちの主張の核心でもある。我々は、常に釣り師たちに、肩の上のサルを狙われている。自由市場というのは、私たちの選択の自由であると同時に「釣り師」たちの自由でもあるというわけだ。

 

その結果、私たちは欲しくないものまで手にいっぱい持ち、将来を不安定なものにし、政治を私たちのものから大企業のためのものにしてしまっている。この現状を変えるためにはどうすればいいのか。それを著者たちは本書の後半で明らかにしていく。

人々が騙され、害を受ける4つの分野と具体例

著者たちは、4つの分野で釣り(人々が絶対に望まないもの)が広がっていると指摘している。

  • 個人の財務的な安全性に関する分野
  • マクロ経済(経済全体として)の安定性をめぐる分野
  • 人々の健康をめぐる分野
  • 政府統治の質をめぐる分野

そして、たとえば、3つ目の健康をめぐる分野では、以下のような例があげられている。

たとえばヴィオックス(アリーブのような炎症防止薬)やホルモン補充療法などがそうだ。1999年から2004年までの5年の処方期間で、ヴィオックスはアメリカで心筋梗塞による死者を2万6000~5万6000件引き起こしたと推計されている。医師や製薬会社がホルモン補充療法についての疑念を女性に通知しなかったせいで、乳がんが9万4000件ほど生じたとされる。

また、1つ目の個人の財務的な安全性に関する分野で槍玉にあげられているのは、クレジットカードである。

破産経験者のうち、33パーセントが主因として「クレジットカードによる高い負債/濫用」を挙げたこれは失業を挙げた21パーセントより多いし、医療面の理由を挙げた16パーセントより多い。

 

アメリカにおける例だとはいえ、この破壊力はすごいの一言に尽きる。

 

クレジットカードには、そもそも色々な罠が仕掛けられている。クレジットカードは、物や便益は今手に入れ、苦痛(支払い)は未来に先延ばしできる。これによって人々は、本当に必要なものだけではなく、かなりの量の必要ないものまでも買ってしまう。また、使いすぎて払えなくなった場合は、高利の借金に変身する。

 

『不道徳な見えざる手』のまとめ

サッチャー、レーガン以降、世界で広まった「新自由主義」の間違いを指摘し、さらにいえばアダム・スミスの「国富論」における「見えざる手」を否定する。そんな大きなパラダイムチェンジを起こす。それが本書の目論見であろう。

 

著者たちは、規制なき、自由な社会がいかに「釣り師」(情報を操作したりして、人々に誤った判断をさせる人または組織)にとって楽園になっているか具体例をあげて説明する。そして、そういった「釣り」がときどき起こる例外的な事象ではなく、あらかじめこの世界に組み込まれているシステムの一部なのだと喝破する。

 

社会心理学者のチャルディーニは『影響力の武器』においてセールスマンや広告主たちがどのようなテクニックを使って私たちを「誘導」しているのかを解き明かし、その対抗策を示してくれた。同じように本書で著者たちは、私たちがどのように「釣られる」のかを解き明かし、それを防ぐための手段を提示してくれる。

 

従来の行動経済学を伝統的な経済学の中に組み込んでいき、新たな経済学を作り出す。それが、著者たちの真のゴールではないだろうか。そして、本書はその道のりにおける最初の一里塚になるのではないだろうか。

不道徳な見えざる手

不道徳な見えざる手

  • 作者:ジョージ・A. アカロフ,ロバート・J. シラー
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 発売日: 2017-05-12

ブログ村

↓押して頂けると著者の励みになります。

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ
にほんブログ村

本日もご精読ありがとうございました。

ウォールストリートジャーナル

★おすすめ情報★
投資で成功するためには情報への投資も大切です。
世界のリーダーが愛読する経済紙・ウォールストリート・ジャーナル

僕も10年以上利用しています。IPOや米国株を中心とした海外投資を考えている人は口座開設しておきましょう。
No.1ネット証券で始めよう!株デビューするならSBI証券

パフォーマンスファースト広告



-読書
-,

Copyright© Life is Investment 人生は投資だ , 2019 All Rights Reserved Powered by STINGER.